早起き

2019年2月28日木曜日

短編小説

t f B! P L


初出 2013.09.03 即興小説トレーニング

 早起きが得意だと人から良く言われる。
 たしかに毎日の登校で遅刻したことは一切ないし、朝食を食べ損ねるなんてこともしたことがない。修学旅行などの行事の時も、私より早く起きる人はいなかったと思う。
 かといって決して目覚めが悪いわけでもないし、朝の眠りを短く切り上げたからと言って授業中に寝てしまう、なんてこともなかった。
 よく頭を鳥の巣のようにしてくる友人には、それがすごく羨ましいと言う。
「私もそんな風になりたかったなぁ。ゆとりのある朝っていいよね」
 どこがいいものか。
 もちろん、朝食によく混ぜた生卵と醤油を加えた白米を食べる時間があるというのは、私にとってよい方向に作用している。時間がなくて、あるいはダイエットとして、朝食を抜いてくる友人たちよりは私は健康的な肉体を保ってるという自負もある。
 ただし、だ。
 それはあくまでも自力で起きれた場合に過ぎない。
 私の場合はそうではないのだ。自分の中にいる存在に、その時間を整えられているだけなのだから。
『ほらー起きろー朝だよー』
「……今起きる」
 いつから私の中にいるかなんて私にもわからない。そいつ自身も知らないというし、ほかの人に言っても変な目で見られるのがオチだった。
 ただ睡眠のさなかに、毎度ふっと声をかけられると私の意識はすでに常時のレベルまで覚醒する。
 何度か理屈を考えようとしたことはあるが、何度考えても時間の無駄にしかなりそうになかった。

『ねぇ、僕の声聞こえてるなら起きてよ』
 いつだったか、あまりにも不可思議でわざと寝続けようとしたことがある。
 何か別の言葉がきければいいと、そんなことを思ったからだ。
 そいつは自分のことを「僕」という。名前を尋ねたかったが、声を出した瞬間「僕」はさっと消えてしまう。
『……起きないと無理やり起こすよ』
 いつまで経っても狸寝入りをする私に、そいつはぞっとするような声でそう言った。
 今でもその時の恐怖は鮮明に覚えている。
 だから、結局そいつのことは何もわからないまま、私は起きていることを宣言するしかなかった。

「ホントうらやましい」
「……そうでもないよ、別に」

Novella

糸繋ぎ、四季踊る
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