雨の日

2019年2月28日木曜日

短編小説

t f B! P L


初出 2013.09.04 即興小説トレーニング

 大雨の日というのは憂鬱なものだ。
 出かけるのに一々傘を持たないといけないし、洗濯だって乾かない。
 ずっと部屋にこもっていることが推奨されないこのご時世、雨の日ほどやっかいなものはない。
 手に疲れを感じながら傘を持って歩いても、その間に服はびしょびしょ。うっとうしさに思わず空を見上げたら、今度は気づかず水たまりにドボン。靴の中が大惨事だ。あまり考えたくない。
 田舎の道はどうしてこうデコボコなのか、雨の時に水たまりができるじゃないか。
 誰に対してでもない文句をぶつくさ言いながら、私はのそのそと雨の中を歩く。
 ポツポツ、びしゃびしゃ、ぐちゅぐちゅ。
 数多くの水の音は、なんの気休めにもならない。
 このあたりにしては不釣り合いな豪邸(たいてい、こういうのはヤクザの家だそうだ)の横を抜ければ、家まで――まぁ後二十分は歩く必要がありそうだ。
 ひとりで小さくため息を吐く。息が白い。ここ最近急に冷えたものだ。
 その時、鬱々と下を向いて歩いていた私にもはっきりとわかるぐらい、地面がぱっと光った。
 驚いて立ち止まれば、一拍ののちにゴロゴロという低い音が耳に届いた。
 雷だ。
 わかった瞬間、私は勢いよく駆け出した。
 さっきまで死ぬほど嫌だった、雨に濡れるなんてこと、今じゃなんでもない。 
 ゆっくりと歩くとほどほどの時間のかかる道を、私はものすごい勢いで駆け抜けた。目指すは二階にある自室の窓辺。
 濡れた服を適当に脱ぎ捨てて、私はすぐ窓から身を乗り出すように外を見る。
 光った。
 今度ははっきりと稲妻が見れた。
 ゴロゴロと鈍足に続く音がとっても愛おしい。

 雨の日はたしかに憂鬱だ。
 だけど、私はこういう日が嫌いではない。



Novella

糸繋ぎ、四季踊る
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