君らしさ

2019年2月28日木曜日

短編小説

t f B! P L


初出 2013.09.02

「お前さー」
「なに」
 中学からの帰り道、幼馴染のあいつは言った。
 歩道の段差を平均台みたいにふらふらとバランスを取りながら、僕に背中を見つけながらの言葉だった。
「勉強以外、することないの」 
 手元に持っていた参考書をぱたんと閉じて、僕は彼を見た。
 睨んでいるようだ、と称される僕の視線でもあいつは何も言わない。
 僕がただ目が悪くて、そうなってしまっているというのをよく知っているからだ。
「……ないでしょ、受験生にそれ以外のことって」
 少し間を置いてそう答えると、彼はその場で立ち止まってこちらを向いた。
 早く帰りたいのにと思いながら、僕もその場で足を止める。
 一体なんだというのだろう。
「そうじゃなくてさ、お前としてやることないの。その、受験生だからどうってのじゃなくて」
「ないよ」
 さっきから何が言いたいんだろうかこいつは。
「……お前自分の人生枯れてるーとか思わない? 勉強ばっかしてさー。そんなに勉強好きだっけ」
「いや別に」
 納得できないという顔をする彼の横を、僕はさっとすり抜けた。
 これ以上ここで立ち止まってるのもどうかと思う。
 道端で立ちながら長話なんておばさん連中だけで十分だ。
 話をするなら歩きながらの方がいい。
「さっきから何言いたいの」
 ちらりと後ろを気にしながら、僕は言う。
「うーん、えっと、だからさー」
 唸るような幼馴染の言葉を、僕は辛抱強く待った。
 どうせもうすぐしたら家につくんだし、そこまで何も言えなかったら捨て置こう。
「あ、あれだ。らしくねえじゃんなんか。こう、中学生としてさ」
 考えを見透かしたようなタイミングで、そんな言葉が彼の口から飛び出した。
「らしくない?」
「そう! 普通さもっとこう遊びてーとか彼女ほしいーとか。そんなもんじゃん」
「そんなものかな」
「そんなもんだよ」
 彼に言われて、僕はふと考える。
 家に帰って、宿題をするより先に遊びに出掛ける僕。休みに復習をせず、恋人とデートをする僕。
 どれも、普段とは大きく違う僕の姿だ。
 勉強なんて放りだして、宿題はやってこなくて、忘れ物も多くて、先生に怒られているような、僕?

「そっちのほうが「らしくない」かな」
「……奇遇だな、俺もそう思う」

Novella

糸繋ぎ、四季踊る
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