空へ託す想い

2019年2月28日木曜日

短編小説

t f B! P L


初出 2013.05.19 関西コミティア無配 

 退屈な教師の言葉をBGMに、私は空を眺めている。
 どこまでも続く青い空。広大なそれを前にした自分の小ささに、人間の矮小さを感じ、限界を感じ、この世から消え去ってしまいたいとさえ思う。
 なんて、そんなことはかけらもなく。ただどんよりと薄汚れた空に軽蔑の目を送るだけである。
 遙か昔の文芸作品とやらにはやたら空をほめたたえる文章がみうけられるが、現代の濁りきった空をみるとそんな気分にはまるでなれない。それならまだ授業の黒板のほうがマシだろう。
 高度に文明が発達した弊害。歴史をひもといて結論するならば、おそらくそういうこと。
 誰もがあこがれる未来世界。それをめざし猛進してしまった結果、美しい空は失われてしまった、らしい。
 らしい、というのは現代の若者たる私はそもそも空と美しいがつながらない。遙か昔にはあった宝といわれても実感がないのだ。もともと持っていないものはなくしようがないではないか。
 爺婆世代の人間はそんな私たちを哀れだというが、毎朝電車とかいう箱に押し込められてた人間のほうが哀れだと思う。今の時代どこかに行くためだけにそんな苦痛を感じることなど全くないのだから。
 窓から見える、汚れた空が風とともに汚物を運ぶ。直接手に触れることが叶わないその場所を見ながら、私は毎日同じことを繰り返す教師の言葉を聞いていた。
 そして一人思う。
 かつて空が美しいと言っていた人々は、この未来を望んだのだろうかと。



Novella

糸繋ぎ、四季踊る
春の章/夏の章/秋の章/冬の章

このブログを検索

QooQ