初出 2014.04.12
夜に外を歩くのが好きだ。
正確に言うと、昼間は外に出たくない。日差しが肌に刺さるのが嫌だし、人が多くいるのもいやだ。
別に人に会うのが駄目というわけではなくて、がやがやとうるさいのが嫌なのだ。
だからもっぱら、僕が出かけるのは夜だ。
昼は一歩も、家からは出ない。
幸いそれでもなんとかなる職についているので、将来に対しての不安もなく、引きこもり状態に後ろ指差してくるほどの親類もいない。
赤の他人から見たらどう思われるかなんて、それこそ僕が気にすることじゃない。
自転車の鍵を取り出して、鍵穴に入れる。
僕の移動手段は徒歩かこの自転車だけ。なぜなら、電車が動いていないから。
金属が触れ合う音を聞いて、けれどそれが自分以外の存在が出している音だなんてまったく思いもしなかった。
「あ、こんばんは」
「……あ」
素敵な笑顔で話しかけられても、とっさに反応できるほど僕は人慣れしていない。
むしろ体中、嫌な汗でびっしょりだ。
「今から出かけるんですか?」
「……一応」
相手はどこか煌めいた雰囲気の、美形の男だった。夜の空気も相まって、現実感のない男だ。
「寒くないです? よかったら使ってください」
差し出された、一枚のカイロ。ご丁寧にちゃんと新品。
「……、……どうも」
「気をつけてくださいね」
そう言って、彼は爽やかにこの場を去っていった。
最後まで笑顔を絶やさなかった彼の背を、僕はただ見つめることしかできなかった。
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