花の少女

2019年2月28日木曜日

短編小説

t f B! P L


初出 2013.07.01

 広がる草原に点在する、色と色と色。その多種多様さに私は目を見張った。
 今まで見た花畑は、同じ種類の花を同じ区画に揃えて植えるものばかりで、こんな風に無秩序に咲いている花を見るのは生まれて初めてだ。
 ほのかに鼻孔をくすぐる、土と草の香り。肌を覆い隠すような服と日傘で遮っても、太陽の光が身に刺さる。都会暮らしの長い友人は、不快だとさえ言っていたが、初めての私にとってはどれもうれしいものだった。
「あっち! あっちに行きましょう」
 私をここに連れてきてくれた幼い少女が向こう向こうと飛び跳ねて指を指す。それにくすりと笑ってから、私は小さく頷いた。
 地面の小石がはじける音がして、視界が前に近づいていく。背後で少女が頑張る息遣いが聞こえた。
 生まれたときから慣れ親しんだ振動が、しかし彼女にかかるとまるで別のものに感じられる。その変化をよく感じ取りたくて、私はそっとまぶたを下ろした。
 がたがた。ごとごと。
「着きましたよ?」
 しばらくして彼女にそう言われ、私ははっと目を開けた。
 目の前に広がったのは、一面のコスモス畑。
「……驚いた。コスモスっていろんな色があるんだね」
 私の顔を覗きこんでいた彼女は、私の言葉ににっこりと笑った。
「うん! ここ、あたしの秘密の場所なの。お花畑だけど、花束みたいにも見えるでしょ?」
 そう言って、彼女はコスモスの群れに飛び込んだ。花と花の間をするすると、彼女は駆け抜けていく。
「おねーさん!」
 花畑の中心で、彼女が私の名前を呼ぶ。
 たくさんのコスモスに囲まれた彼女の笑みは、大きな花束の中で輝く一際大きな花のように見えた。

Novella

糸繋ぎ、四季踊る
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