初出 2014.04.10
「なんなのこれ」
テーブルのかわいらしいお皿の上に我が物顔で収まった茶色の塊。一般的な茶色よりは、少し赤く沈んだ色をしている。
「あぁ、羊羹よそれ」
その疑問に答えた母の言葉に、私は一人納得した。
なるほど羊羹。言われてみればたしかに、この赤みを形容したくなるような茶の色は、小豆の色だ。
「なんで羊羹? 珍しい、っていうか初めてじゃない?」
うちは一家そろって洋菓子派。小豆が原料のお菓子なんて私が生まれてきてから一度もテーブルに並んだことがない。
一体どうしたことだろうか。
「あぁ美智が友達のとこでね、作らせてもらったんだって」
「え、じゃあこれ美智が作ったの?」
突然出てきた妹の名前に、私は驚いた。小学三年生になったばかりの彼女に、まさか和菓子を作る過程の友達がいたなんて。私には話してくれたこともないのに。これが姉離れかと思うと少し悲しくなってくる。
「結構老舗の和菓子屋の息子さんでね。今から将来家を継ぐために毎日練習してるんですって」
「はー、同級生の子よね? 今から将来のことなんてすごいわー。って息子、男か!」
あー洋菓子好きの妹が、和菓子作りなんてするわけだ。きっとほかとはちょっと違うミステリアスな男の子にきゅんと来ちゃって気を引くために頑張ってる最中、みたいな。
少女漫画街道まっしぐらだ、やるなぁ妹よ。
「ちなみに、美智の同級生じゃなくてあんたの同級生よ。ほら三組の……」
「え? 私の同級って中三じゃない! どういう経緯よ!」
というか小三と中三ってどんだけ年の差よ。年上の男に惚れる少女漫画はいくつもあるけど、それにしてもなかなかないレベルの差じゃないの。
「あんたと同じ歳だとは思えないぐらいしっかりした子だったわよ。あんたも少しは……」
「……くから」
「え?」
「次があったら絶対私も行くから!」
0 件のコメント:
コメントを投稿