大きな壁

2019年2月28日木曜日

短編小説

t f B! P L


初出 2014.04.06

 その男が見たのは、自分の身長の倍以上はある巨大な壁だった。
 その壁はずっと横長に続いていて、横から回り込むのは不可能だ。行く手を遮るその壁を、男は呆然と眺めていた。
 男がふと横を見ると、ほかの人々も壁に行く手を阻まれているようだった。
 
 そのうちの一人が、壁の前に箱をおいたり、壁に引っかかりをつけて時間をかけながら壁を上って向こうへ行った。
 別の人は、鍵縄を使って、あっさりと向こうへと渡った。
 男はほかの人の様子が気になって、壁沿いに歩いてみることにした。
 
 歩き始めてすぐに、壁に穴をあけている人に出会った。
 男はそんなことをしていいのかと尋ねたが、その人は通れればなんでもいいんだ、と言った。
 
 男はまた別の人を見つけた。その人は前の人が作った階段をそのまま上って向こうへと渡った。
 次の人は壁を背もたれにして座り込んでいた。
 
 男がどうかしたのかと訊くと、その人はあきらめたと答えた。
 その次に出会った人は、何かをじっと待っているようだった。
 
 男もなにをするつもりかと待っていたら、その人はほかの人間を捕まえて向こうへと行かせてもらっていた。
 あたりに人が見えなくなって、男はそこで立ち止まった。
 そこからじっと壁を見つめ、――行動を開始した。

Novella

糸繋ぎ、四季踊る
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